Ayn Rand Says(アイン・ランド語録)

第7回 アイン・ランドとネオコンの接点  [08/03/2008]


The right of “the self-determination of nations” applies only to free societies or to societies seeking to establish freedom; it does not apply to dictatorships. Just as an individual’s right of free action does not include the “ right ” to commit crimes (that is, to violate the rights of others), so the right of a nation to determine its own form of government does not include the right to establish a slave society (that is, to legalize the enslavement of some men by others). There is no such thing as “ the right to enslave.” A nation can do it, just as a man can become a criminal---but neither can do it by right. (“Collectivized ‘Rights’” in The Virtue of Selfishness: A New Concept of Egoism)


(「国家の自己決定」権は自由社会、もしくは自由の確立を求める社会に対してのみ適用できる。独裁制国家には適用できない。自由に行動する個人の権利には、犯罪に手を染める権利は含まれていない(これは他人の権利を侵害することだから)。同じく、どんな政府形態を持つのか決定する権利には、奴隷社会を確立する権利は含まれていない(これはある人々による別の人々の奴隷化を合法化することだから)。「奴隷にする権利」というようなものは存在しない。ある人間が犯罪者になることができるように、国家もまた罪を犯すことができる。ただし、それは権利があるから、ではない。)

★第5回で、私は、アイン・ランドはネオコンとごっちゃにされがちだと、書きました。実は、それは当然なのです。ネオコン思想の中核は、「他国への介入を通じて民主主義を広め、推進していく」(フランシス・フクヤマ『アメリカの終わり』講談社、2006、p. 56)ことであり、「全世界的規模での共産主義との戦い」(フクヤマ、p.66)です。ランドが言うように「独裁制国家には自己決定権」が適用されない」となれば、その独裁国家は個人の権利を認める自由な社会にならなければ、その国家の主権は認めないということになります。ま、ベトナム戦争介入も、イラク侵攻も、ランド的にはOKになりますね。

★実際に、アイン・ランドの遺稿管理機関のThe Ayn Rand Instituteは、積極的に、外交政策に関する提言を出版しています。はっきりブッシュ政権支持です。本気で、アメリカの「善意による覇権」を信じているようです。

★アイン・ランドや、弟子たちが支持するアメリカ合衆国の「善意による覇権」は、ほんとうに「善意による覇権」なのでしょうか?まず、そこが疑わしいです。

★次に、アイン・ランドの言うことは正しいとは思うが、現実の政治の場では有効なのだろうか?という疑問も起きます。たとえば、ネオコンの論理は、国際関係理論としてのリアリズムからは批判されています。

「国際関係の理論としてのリアリズムは、体制のいかんにかかわらず、すべての国家は覇権を求めて闘争するという前提からスタートする。体制については時に相対主義的で、その中身を問わない姿勢になる可能性もある。大概のリアリストは自由民主主義が普遍的な政体となりうるとは考えてはいない。自由民主主義の基礎となる人間の価値観が非民主的な社会の底にある価値観に比べ、必ずしも優れているわけでもないと承知している。むしろ、民主主義を理想として広めることは、リアリストから見ると不安定を招きかねず、危険であり、やめるようにと警告する傾向にある」(フクヤマ、P.52-53)

★私は、アイン・ランドをこよなく愛する人間ですが、考えることも行動も、実に曖昧で矛盾だらけです。「正しいから通用するわけじゃない。正しいから結果が必ずしもよくなるわけでもない。現実に厄介なことがないように世界を維持するのは、魂を半分くらいは悪魔に売るしかないことであって、それが政治だな」と考えるいい加減な人間です。

★なんで、こんな人間がアイン・ランドに対して恋するように墜落したのか?苦痛を感じながら翻訳しているのか?多分、私の心の中で、ランド的な理想主義と、リアリズムがいつもいつも抗争しているからでしょう。理想主義忘れたリアリズムは腐敗するだけだし、リアリズム忘れた理想主義は妄想になるばかりだし。健康な精神とは、こういう絶え間のない葛藤の中にしかないのでしょう。だからといって、別に何も解決しないのですが。