アキラのランド節

『「うそつき病」がはびこるアメリカ』という本は怖い! [08/30/2004]


あちこちの郊外地とかに建設されてきているイオン(ジャスコ)のショッピング・モールは、とてつもなく広い。通路も広い。小さな映画館が15ぐらい集まったようなシネマ・コンプレックスもある。夜の9時を過ぎた上映作品の入場料は1000円になる。だから、ガキ連れの家族の観客が週末の夜遅くにシネコンにやって来るそうだ。

「うわ〜〜アメリカみたい!」と思う。もう、ほんとアメリカそっくり。コーラとポップコーンも売っている。アメリカと違うのは、キャラメルがかかったポップコーンは売っているが、溶けたバターをたっぷりかけたポップコーンは売っていないということと、コーラはあんまり売れずに、ウーロン茶とミネラル・ウォーターが売れている、ということと、切符モギリのアルバイトらしき若い女の子や男の子が、「いらっしゃいませ!」と礼儀正しく元気に声をかけてくれるということだけだ。

ショッピング・モールは現代の公園みたいなものである。12、3年前くらいまで、私はアメリカに行くたびに、「アメリカ文学の旧跡を訪ねる」という第一の目的をすますと、翌日は喜び勇んでバスでエッチラコッチラ郊外地まで行って、そこの巨大なショッピング・モールで遊んだものだ。フード・コートでfried riceと spring roll2本(一本が太い!)食って、映画を3ドルで観て、それから巨大なモールの全ての店舗を見物して歩いたものだ。その頃は、日本ではあまり一般的ではなかったCoachというブランドのバック買って意気揚々としていた。Banana Republicでシャツ買って喜んでいた。アホや。こういう庶民派ブランドも、今では日本のどこのデパートでも買えるようになった。

マイケル・ムーアの『華氏911』を観た。この映画に関しては毀誉褒貶が激しいらしいが、非常に面白かった!私にとって強烈に印象が強かったのは、アメリカの政界や財界を牛耳る人々、もしくは彼らの走狗の人々(ブッシュ大統領の顔なんかアホな中学生並だから、まだまし)の、人相の悪さだ。もう、すっごく強烈に人相が悪い。冷酷で浅はかで、かつ獰猛で、人間離れした顔だ。ゴジラの方がよほど人間味があり上品である。日本の政治家や財界の指導者も人相が悪いけれども、あれほどではないよ。ああいう連中相手に、国を守っていかなければならない日本の運命に、私は涙しそうになった。鎖国できれば、私は鎖国したいよ、ほんと。あいつらならば何でもやるよ。日本を食い散らかすよ。

私は、小学生の頃に人相学をベンキョーして以来、人に関しては顔で判断してきた。気になるのは、最近の30代や40代前半あたりの日本人の顔の人相が、悪くなりつつあることだ。特に男性。浅はかで小賢しく下司で狭量で小狡いキーティング顔。おおむね不細工な(と言われる)日本男が、人相悪くなったら、もういいところない。単なるサルかネズミじゃないか。ほんとうは、ゼミの学生選ぶとき、面接したいぐらいだが、年間100万円の施設費と授業料を取っているんだから、来る者は拒まずで行くしかない。別に、細木数子さんの真似する気はありませんが、私は姓名判断も四柱推命もできるんだぞ。ははは。若い頃の辛いときは、いつもひとり寂しく背中丸めて自分を占っていたものだ・・・何の話か。

ところで、『華氏911』の終わりごろに、マイケル・ムーアの故郷の町の少年たちが出てくる。失業率がとてつもなく高く、彼らに職はない。だから、軍隊に入るしか、食べていく手段がない。高等教育を受けようにも、金がないので、軍隊に入って貯金しようとする青年もいる。で、コネも何の後ろ盾もない彼らがイラクあたりの最前線の戦地に送り込まれる。ムーアのナレーションは、次のような内容を語る。「不思議だと思う。アメリカから何の恩恵も受けない貧しい若者が仕事がなくて軍隊に入る。アメリカを好きに利用して、アメリカから搾取しているエリート連中の利益のために、彼らは戦地に送り込まれ殺される。貧しく無知な彼らが、アメリカの上層部を支えているのだ」と。でムーアは、ワシントンD.C.の議事堂まで行き、議員の子どもを軍隊に入れて、イラクで戦ってもらえないか、イラクとの戦争の大義を信じているのならば・・・と議員たちに軍隊入隊のパンフレットを渡そうと試みる。

あ、ブッシュのスピーチの一部も印象に残ったな。「持てる者のみなさん、もっと持てる者のみなさん、つまりエリートの方々・・・あなた方こそ、私の支持層(base)です」って。ブッシュのスピーチ・ライターのセンスがいいね。いいんだか、悪辣なんだか・・・

貧しいがゆえに無知なままにされている人々が、いいように利用され、搾取され、自分たちの搾取者のため命をすり減らして貢献する。この構造を守るために<上の連中>は絶対に彼らや彼女たちが無知から覚醒することがないように、いろいろな手を考えておく。アホ丸出しの映画に、添加物ばかりの食品に、貧しい公教育に、中産階層以下から搾り取れるだけ搾り取り、富裕層には有利極まりない税制と不公平な脱税調査・・・こういう構造は、アメリカでも日本でも世界中にある。歴史は、この構造の様々なヴァージョンの累積だ。

私自身は、この弱肉強食の構造というのは、この弱く貧しい者に3K仕事を押し付け、その報酬は与えず、その利益と恩恵は<上の連中>が享受するという階層化の構造というのは、人間集団が必ず作り出してしまうものではないか、と思っている。これでいいと、肯定しているわけではない。人間の現実って、こういうものなのだな、と感じるのだ。

だから、私は次のことを見込みのありそうな女子学生には熱く語るフェミニストなのだ。「こういう人類の普遍の不変構造の中では、女は世界の黒人なのだから、最大多数の被差別民なのだから、気をつけて生きろ!男の数倍は、賢く粘り強くないとサヴァイバルできない!コスメなんかに夢中になって顔いじくってんじゃなくて、自分で食っていけるだけの資格なり技術なり知識なり身につけておかないと、やばい。若いときから準備しないと、オバサンになったら、単なるうるさくて長生きする生ゴミでしかない!リスク管理は大事。ちゃんと準備しておけば、まともな男にもあたる(かもしれない)。ちゃんと準備しておかない無用心で頭の悪い女は、DV男やアル中男と結婚するはめになる。人生は皮肉なものです!交通事故にあうのは、保険に入ってない奴ばかり(かなあ?)」と、細木数子さんとは正反対のことを言うのだ。

ところで、あの細木さんもさあ、自分は安サラリーマンの殊勝で心優しい慎ましい女房なんかやったこともないのに、よく「女の道」をテレビで説くよなあ。まあ、自分のできの悪さは棚において、男にばかり要求する強烈駄目女も、確かに多いけれどね。あの人の再婚相手だった安岡正篤が陽明学者で自民党の政治家のご意見番というか相談相手というか占い師だったから、そのルートで、細木さんは「日本の女再奴隷化プロジェクト」に参画(?)しているのではないのか?とんだ男女共同参画である。私は、大昔からの細木ウォッチャーだからね、知っているんだぞ。つまり、結構、あの人好きなわけよ。何の話か。

そう、マイケル・ムーアが憤怒するアメリカの弱肉強食の構造の話でした。この映画とともに、デービッド・カラハン著・小林由香利翻訳の『「うそつき病」がはびこるアメリカ』(NHK出版、2004.8)を読むと、なおいっそう心の底から、暗澹とするでありましょう。まだまだ残暑は続きますので、このさい、とっても震撼させられるのも涼しくて良いのではないでしょうか。

この本は、犯罪件数が減少し、結婚や家庭や家族やコミュニティなどの伝統的価値観への回帰が見られ、宗教の大切さとかも再評価されている昨今のアメリカで、それとは裏腹に、「成功=キャリア=金儲け」を目指すための不正はどんどん蔓延化して、今では「誰もがやっている」日常と化したアメリカの現状の実例を列挙したものです。

まず、この本は、あの9.11事件のときのニューヨーク信用組合の例から書き出している。この信用組合は、連邦や州や地方自治体の職員30万人の資産を預かる「アメリカの公務員の農協」みたいなもんである。あのテロのあと、ここのATMとアメリカ北西部最大の現金支払機ネットワークとの接続が切れてしまった。そこの組合員=マンハッタンで働くアメリカの公務員は、現金は引き出せることは引き出せるが、その記録が、そこのATMではできなくなり、かつ残高以上に引き出すのを阻止する機能も停止されてしまった。でも、金がないのは困る。ニューヨーク信用組合は、組合員を信じて、ATMを利用できるままにしておいた。

ところが、残高以上に引き出しても記録に残らないと気づいた組合員は、ドンドン金を引き出した。11月になってから、やっとシステムが復興したので、信用組合は調査に乗り出して、残高以上に引き出した4000人ほどの組合員に差額の返金を求めた。何ヶ月も訴えた。しかし、1500万ドル(15億円以上か)が返ってこなかったので、とうとう返金しなかった大量の組合員が逮捕された・・・この人たち公務員です。裁判所勤務の人も多いのです。

同じことが日本で起きたら、どうなるんだろう?

この例を初めとして、アメリカ人の金にまつわるモラル・ハザードの生々しい実例が展開するわけです。弁護士や自動車修理工場の当たり前の慣習化した水増し請求、医師と製薬会社の金の結託による患者の生体実験の日常化、エンロンばかりでない大企業の粉飾決算による重役たちの何百万ドルを超えるボーナスと、会計監査を甘くする会計士たちの暗躍、それとうらはらの下級社員の低賃金と、そのあとに来る倒産、企業年金の破綻。その会社の株に投資して老後資金を失くす人々・・・しかし、倒産前に会社をサッサと辞めた重役たちにお咎めはない。金持ちの脱税は調べないで、低所得層のそればかり調べる税務署。アメリカでは、米内国歳入庁(IRS)というらしいが。

アメリカの産軍複合体の軍と産業と政府の結託と政治家の腐敗ならば、スポーツ選手の薬物によりズルは有名なので、驚かないが、普通のアメリカ人がズルにいそしむわけだ。特にホワイト・カラーが、この種の犯罪に走るのであります。

自分の職業柄、ショックだったのは、アメリカの高校生や大学生のいい成績を取るための不正だ。レポートや卒論の内容を、インターネットの情報からぱくるというのは、日本の大学生でもやる。カンニングする卑怯な馬鹿は日本にもいる。大学への推薦入試のために推薦文を教師に書いてもらうために、教師とモーテルに行った女子高校生という例ならば、日本にもある(前に勤務していた名古屋の女子大の学生が自慢していましたよ)。入試問題漏洩も、定期的にばれて新聞沙汰になる。

しかし、健常者の学生が学習障害(SLD)であると、金を出して医師に証明してもらって、大学入試用の共通試験の受験時間を長くしてもらって、高成績を取り、有名ブランド大学に入る、なんていう例には驚く。で、ほんとうにそういう診断を医師からしてもらって、便宜をはかられるべき学習障害者は、自分が病気とは知らず、公正な競争に入って、負ける。家が貧しくて、医師の診断を受けられない学習障害者がいる一方で、金で買った診断書で、特別扱いの有利な受験をする金持ちのドラ息子やドラ娘がいる。親も子どもがブランド大学に入れるのならば、手段は選ばない。もう、それが名門進学高校ほど多いというではないか。家庭教師にレポート書かせるなんて、あたりまえで、組織だったカンニング・ネットワークも当たり前。恥とか罪の意識なんかないわけです。もちろん、カッコ悪いなんて、倫理と背中合わせの美意識もない。

確かに、アメリカってすごいブランド学歴社会だからなあ。アメリカの大学に行った日本人研究者なんて、Tokyo University出てないと馬鹿にされるもん。ほんとだって。

万引きする奴は減っているが、成功を、出世を求めて、また成功と出世の成果(?)である金を求めての不正は、もうドンドン増えているのが、アメリカの現在らしい。

巨大ショッピング・モール現象ばかりでなく、何でもアメリカの真似する日本に、こういう金と出世にまつわるモラル・ハザードとアノミーが伝染するのは、あと数年のことかもしれないし、もう日本にもはびこっていることなのかもしれない。モラル・ハザードとアノミー(無規範)は、日本もひどくなりつつあるもんなあ。

ねえ〜〜涼しいでしょう。そんな日本見たくないね。私も頑張って長生きしないようにしないと、醜い醜い汚い汚い腐った腐った日本を見る羽目になるのかも。でも、私は誰が見ていなくても、私自身がじっと見ていますんで、この本に書かれているアメリカ人の真似はしないもんね。まあ、やれるようなポジションでもないので、普通にまっとうに生きるしかないけれども。ただし、自分の命がやばいとなったら、何するかわかりませんが。

この『「うそつき病」がはびこるアメリカ』という本は、面白いのだけれども、ひとつだけ頭に来る事がある。このデービッド・カラハンという人物は、明らかに民主党支持の高度福祉支持の文化左翼系「リベラル」だから、このアメリカのモラル・ハザードの原因の一部を、アイン・ランドのせいにしているのよ。133ページのところよ。私は、この本を書店で見かけて、ピンと来た。この本には、アイン・ランドの悪口が書いてあるな、と思ったら、案の定書いてあったね。こういう私の予測ははずれない。金権アメリカの腐敗、競争社会アメリカの弱肉強食というテーマの本になると、だいたいランドの悪口が出てくる。書きやすいんだよね。決してマイナーではないが、取り上げるのがやばいほどのメジャーじゃないから。女の成功者に対する男の嫉妬もあるしね。

で、はっきり確信したね。この著者は、まともにランドの小説もエッセイも読んでいない、と。ここらあたりに、『「うそつき病」がはびこるアメリカ』の著者に対する疑惑が生まれてくるけどね。こいつって、21世紀のトゥーイーかもしれんって・・・こういう奴の書いたものは、どこまで信用できるのかなって・・・

なんか、この著者のスタンスが暗くてさ。そういうアノミー・アメリカをどうするかってことには、あまりページを割いていない。ひたすら、アメリカのモラル・ハザードの実例を書くだけ、それもけっこう反復が多い。その書き方のまとまらないシツコサが、ひっかかる。「僕も、そういうズルやって金も受けてラクしたいのに、チクショ〜こんなに僕は勉強して努力してきたのに、金もなくて・・・報われなくて・・・」という怨念が吹き出ています。うん、インテリとか知識人って、金欲しいくせに、金に恬淡と正義を語る顔するんだよね。まったく、いかにもリベラルな人。

私は、はっきり金欲しい。だけど、金になる才能ないしね。金稼ぐための、無理な努力もできんのよ。好きな科目しか勉強しなかった学生時代の根性が絶対に直らない。嫌いな奴とつきあう度量もないし。ははは。だから、その月暮らしね。でも気楽で幸福。何でもおいしいし。清くもなく、正しくもなく、美しくもないが、好きに暮らしているから、別に誰にも恨みはないし。ズルやっている奴は、今までもいっぱい見てきたけどね。若い頃は、ほんとむかついたけど、そいつら、男女問わず、しっかり醜く汚く腐った感じの人間になっているからなあ・・・天網恢恢疎にしてもらさずよ。

話を元に戻す。だいたいね、ランドをまともにきちんと読んでいたら、ランドの提唱した個人主義擁護が、アメリカのモラル・ハザードの遠因のひとつだ、みたいなこと書けるはずがない。彼女ほど、搾取や不正を憎んだ人はいない。自分の力と努力で、その糧を正当に適切に手にする体制として資本主義を寿いだ。資本主義が悪なのではなく、理性を駆使せずに目先の欲と貪欲さのために他人の仕事を搾取する人間の愚かさが悪なのだ。自分を大切にする個人主義を、悪の元凶として観るのは、短絡というものだ。ほんとうに徹底的に自分を大切にする個人主義者ならば、しょうもない打算貪欲に走るものか。不正と虚偽は、最終的には自分にはかえってくるもん。そうなんだもんね。

ランドっていう女性は、ほんとうに人間観がまっとうすぎる。彼女ほど、倫理的な、宗教的な人はいない。人間の可能性と高潔さと理性を信じる人間教の創設者だもの。こんな宗教は、歴史上なかったでしょう?こんなに人間存在に期待していては、もうほんとうに孤独で満身創痍だったろう。いっぱい、いっぱい暗くて重い傷をかかえていたろう。自分が打ちたてた人間教によって自分自身を、かろうじて支えていたのだろう。抑圧と無理と孤立感がこうじて、周りを信奉者で固めて閉じこもっても、無理ないよ!

ランド自身は金持ちではなかった。売れっ子の作家ではないからさあ。マスコミの寵児になんか一度もなったことがない。アカデミズムからも無視され馬鹿にされ続けた。貧しい生活の中で小説を書き、ロングセラーの小説の印税収入があるようになって貧乏から解放されても、自分の思想を広める会報や組織の運営に金は出て、フランク・ロイド・ライトに自邸の設計を依頼していたけれども、金がなくて建てられなかった。ずっと、マンハッタンの居間と台所と書斎と寝室しかない慎ましいアパートメント暮らしだった。そりゃ、日本のマンション(というか私の住まいか)よりは、ましな住居環境ではあったろうけどさ。

みなさん、『「うそつき病」がはびこるアメリカ』は、面白いです!DVDで『24-Twenty Four』全11巻見るよりも、この本の方が、生々しく今のアメリカを感じることができます。ただし、アイン・ランドに関する批判は、無視してください。彼女は、もっと人類の水準が上がった未来にならないと、正当に評価されないのだから。未来の作家&思想家アイン・ランドを、現状の人類=亜人間の偏見の目で見ないで下さい。

ところでさ、『華氏911』を観た知人がさ、こう言っていましたよ。「あの映画を若い人に見せないとね。無知で貧しいままだと、ムーアの故郷の失業青年みたいに、自分たちを貧しく無知なままにしておく方が便利な上の連中のいいように利用されて、使い捨てられるだけだから、必死で貧乏と無知から這い上がろう!と、思うからね。無知で貧しければ、そのまんま冷酷に放置されるだけで、誰も助けてくれないってことを、若い人は知っておかないとね」と・・・的を射てはいるが暗い奴・・・

確かに、このように現実を直視して闘志を漲らせるのは大事です。しかし、世の中って、それだけではないということも、信じましょう。日本人が時流に空気に流されて「アメリカ人」になる必要は、さらさらないということも、心にしっかり留めておきましょう。日本人のまっとうな魂を守りましょう。むふふ。