アキラのランド節

アイン・ランドとフリーメイソン [10/25/2004]


この文は、前回のランド節の続編にあたります。あれ以上長くなると、読み辛くなるので書かなかったことです。誤解されやすく、かつ微妙な話題でもありますし。

はっきり言っておきますが、私はアイン・ランド=ユダヤ世界支配陰謀の走狗説など信じておりません!ただ、それとは別に、どうも彼女の人生とか作品には、ユダヤ人も多く入会しているらしき某秘密結社との関係が推測できる・・・つまり、「フリーメイソン」とランドは無関係ではない・・・と考えている人間です。

あくまでも仮説です!はなはだ誤解されやすい仮説だけれども、ずっと考えてきて、多分、事実だったのではないかなあ〜と私が確信するようになったことです。資料などありません。あるはずないよ。

ランドの評伝を読んでいて、私が非常に不思議だったのは、ランドがソ連からアメリカにやって来る経緯や、ハリウッドに入り込む経緯が、なにゆえか不明瞭だったことです。ランド自身が弟子にも詳しく話してなかったのか、評伝を書いた弟子たちが、何らかの理由で、そこはサラリと書いたのか・・・??

ランドが故郷のサンクト・ペテルズブルクのフィンランド駅から鉄道でベルリンに出て、そこから大西洋岸まで出て船に乗り、エリス島に上陸し、入国検査を受けて許可を得てマンハッタンに渡り、鉄道で親戚のいるシカゴに行き、そこにしばらく滞在して、一年もしないうちにハリウッドに行き、スタジオの前で立っていたら、名監督セシル・B・デミル監督に声をかけられて、エキストラとか衣装係とかの仕事にありつけるようになったという、これらの経緯。

このとき、彼女は大学を出たばかりの21歳です。ソ連の大学には飛び級かなんかでもあったらしく、20歳で卒業している。いくら気丈な頭のいい娘でも、そんな年端のいかない女の子が、家族から離れて単身アメリカをめざすというのは、大胆不敵を通り過ぎて、なんか荒唐無稽な突飛な感じがしないか?切羽詰っていたにしても、シカゴには母方の親戚がいたとしても、ユダヤ系は移民には慣れているとしても、なんか不思議な気がする。

ソ連からアメリカに渡るまでの期間でさえ、いろいろあったに違いない。彼女にとっては、初めてのひとり旅で、かつ外国旅行ですよ。観光旅行ではないですよ。もう、二度とソ連には帰らない意志を堅く持った亡命の旅ですよ。不安も恐怖も寂しさもあったろうし、出会う見知らぬ人々への疑惑とかもあったに違いない。無事にニューヨークに着いたときは、いかほどに安心したろうか。また、女の子ひとりの移民を、エリス島の移民管理局が簡単にパスさせたかな?と思う。若い女の子にしつこく尋問して喜ぶ類の意地の悪いセコイ小役人って、いそうではない?

でも、ランドはいっさいそういうことを書いていない。それまでのソ連時代のことは、多少は書いているのだけれども。しかし、アメリカに来るまでの旅程とハリウッドに入り込むまでのことは、あまり書いていない。この人は自伝の類は書いていない。過去を振り返るタイプではなかったのだろう。しかし、彼女にとっての初めての一人旅&外国旅行ですよ。印象は強烈だったのではない?普通は書くよねえ?

そりゃ、記憶力が悪ければ、書けないから書かないということはある。たとえば、私が『自伝』を書けと言われても困る。書くほどのこともない平々凡々な人生だったからということもあるが、あんまり覚えていないから。しかし、ランドは作家ですよ。作家というのは記憶喚起力が強い。印象喚起力が強い。覚えていないはずがない。

ということは、書きたくなかったということですよね。そこは、ぼやかしておかねばならなかったということです。

多分、ランドの父親、もしくは母親の父親は、フリーメイソンの会員だったのだろう。ロシアでは、1822年にフリーメイソンは表向きは禁じられた。その結社の「自由&平等&博愛」を実践しようとする方針は、帝政ロシアにおいて革命を促すような危険思想だ。つまり、禁じられるぐらいに、ロシアのインテリや上層部にフリーメイソンが食い込んでいたということだ。そのネットワークで政治に大きく関与できたということだ。でも、脈々とそのネットワークは生き残ったに違いない。だって、ソ連時代にはすっかり完全に息の根が止められたはずなのに、今のロシアには、フリーメイソンのロッジがどんどん増えているから。ずっと隠れていたんだなあ。さすが秘密結社。

ソ連時代のほうが、帝政時代より、この結社がさらに激しく弾圧された理由はわかるよね。フリーメイソンはブルジョワジーの結社みたいなもんだし、大粛清=大虐殺平気の共産党独裁のソ連にとっては、フリーメイソンの精神なんて邪魔に決まっているし。

あ、フリーメイソンって、要するに志(good will)ある成功者のグローバルな会員制クラブみたいなものらしいです。まあ、そのクラブに入会したおかげで、情報と人脈が使えて成功者になった、という人々の方が多いのかもしれないが。そのネットワークの規模はすごいし、歴史も長いし(古代エジプトからという説もある)、ヨーロッパではカトリックに対抗する大きな勢力であるので、「闇の勢力」とか「世界を支配する影のネットワーク」とか言われてきていますが、インターネットでアメリカのフリーメイソンの支部とか調べるのは簡単です。別に怖いとか、おどろおどろしいとか、そういうようなものではなさそうです。アメリカでは、成人男性の20人にひとりはフリーメイソンらしい。やはり「成功者」のクラブみたい。

たとえば、私の好きなマーク・トウェインは、スコットランド系のフリーメイソンの会員でした。彼の作品の基本精神は、まさにフリーメイソン的。彼は、事業の失敗でかかえた莫大な借金(法的には彼が返済する義務はなかったけど、道義的にはあった)を、ヨーロッパ各地での講演会の謝礼で、全部きれいに返した。そのヨーロッパ講演旅行の手引きは、フリーメイソンの会員(ブラザー)たちにしてもらったのだと私は思う。南北戦争から逃げて、南軍から脱走して、カリフォリニアでしょうもない新聞の記者をやっていた彼が、東部エスタブリッシュメントに認められた作品の最初は、Innocent Abroadというヨーロッパ外遊記だった。多分、この旅行の案内もフリーメイソンのネットワークに頼ったのだろう。ただし、こういうことはアメリカ文学会とかアカデミズムでは言いにくいことでありますが。

日本にも、その集会所(ロッジと呼ばれる)はあるそうです。神戸や横浜には、なんと明治維新前から英国人の支部と、その「ロッジ」があったそうです。横浜の外人墓地の墓で、明治維新前の墓に、フリーメイソンのマークがついたものがあるそうで。

日本人のための支部と、そのロッジもあるそうです。日本の要人たちも会員になっているそうです。外務省とか財務省の官僚も多いらしい。昭和天皇の叔父の東久邇ナントカという人物も鳩山一郎もフリーメイソン。ということは・・・・??

ところで、そのロッジには番号がついている。会員(ブラザー)同士は、「どこのロッジか?」と確かめ合うそうだ。「ジャパン・ロッジ204です」とか答えるらしい。日本には、たくさんのロッジはないとは思うけどさあ、どなたか会員の方は、いらっしゃいませんか?いろいろこっそり教えてください。

例の幕末の「外資」の武器商人の長崎のグラバーさんは、スコットランドのフリーメイソンで、そのネットワークを使用して、後の明治の元勲になる長州の下級武士たち(伊藤博文とか)をヨーロッパ旅行させたという説がある。「尊王攘夷」とか騒いで、外国を討つべしと騒いでいる連中には、実物のヨーロッパ、特に英国を見せるのが一番の薬、教育だから。アヘン戦争で英国が中国から分捕った上海にもあったそうだ、フリーメイソンのロッジは。

グラバーというスコットランド人は、ジャーデン・マセソン商会というグローバル経済を先取りしていたようなスコットランド系大商社の日本支店長さんだった。この人の手引き=この大商社がその傘下にあるロスチャイルド財閥の方針で、英国産の武器が大量に薩摩や長州に売り渡されて、明治維新が成ったというのは、副島隆彦氏の『属国日本論』(五月書房)やマンガ『属国日本史幕末変』(早月堂書房)によって、すでに多くの人々に知られる「隠れた史実」です。ということは、ロスチャイルドもフリーメイソンなのか?ここらあたりで、ユダヤ陰謀説とフリーメイソンがごっちゃにされ、ランドがフィリップ・ロスチャイルドの愛人だったとかいう説が、出てきたのだろうなあ。

なんと、幕府の要人で幕府からの命でオランダに留学した西周(にし・あまね)は、オランダでフリーメイソンに入会している。これは、入会の署名がされた書類が、ライデン大学に保管されているそうだ。このライデン大学は、フリーメイソンの寄付で設立された大学だから。ということは、幕府の内側から、「外国に抵抗したって無駄ですよ〜攘夷なんて無理無理無理」と、将軍徳川慶喜に言う人間を、ちゃんとフリーメイソンは養成したということであり、この西周の洋行の世話したのもグラバーさんだったらしいです。討幕派にも幕府側にも関与していたわけですね。

フリーメイソンに関する日本語文献の中で、信頼できて入手容易な最近出版されたものでは、加持将一氏の『石の扉---フリーメイソンで読み解く歴史』(新潮社、2004)がありますので、お奨めします。とても面白いです・・・

ところで、グラバーという青年には、日本の封建制を倒し、フリーメイソン的市民革命を起こしたいという志が多少はあったのではないかと、著者の加持氏は書いておられます。といっても、明治以降の日本において、自由や平等や博愛が主義になったわけでもなく、明治維新はアメリカ革命でもフランス革命でもなかった。全く市民革命ではなかった。フリーメイソンの理念を実践するには日本はまだまだ未開の部族社会すぎた。帝国主義の尖兵の心にも、経済侵略者の心にも、いくばくかの善意はあったのでしょうが、グラバーさんのやったことは、あらたな封建制を発足させただけのことだった・・・、

それはさておき、アイン・ランドの両親が、できのいい長女を単身アメリカに渡らせたのには、娘の安全が確信できるだけの見通しを、両親が持っていたからではないか。娘に、フリーメイソンの家族であることを証明する何かを持たせれば、彼女がそのネットワークを使って、なんとか無事にアメリカに渡ることは確実であり、アメリカ上陸後も何とかなるという自信が、両親にはあったのではないか。異国での宿泊地や仕事の斡旋に、アメリカ入国の審査の緩和とかもクリアできるコネがあったということではないか。だいたいが、シカゴに移住した親戚というのも、フリーメイソンのネットワークを利用して移住したと考えられるし。

それから、ハリウッドのスタジオの入り口に立っていたら、偶然に大監督のセシル・B・デミルに声かけられたというエピソード・・・この監督はフリーメイソンです。ランドは、それを知っていて、自分がフリーメイソンの会員の娘であることを示す何かを大監督に見せたのではないか?会員にだけわかる何かの言葉とかを発したのではないか?デミルは、ランドとの出会い以来、ランドを「おい、キャビア!」と呼びかけて可愛がってくれた。フリーメイソンのブラザー同士の相互扶助というのは、なかなかのものだそうだ。ランドが、ハリウッドに入り込めたのには、ハリウッドがもともとユダヤ系ロシア人のメッカだったということもあるが、同時にハリウッドはフリーメイソンのメッカでもあったからではないか?ここで「あ、やっぱりユダヤ陰謀論だ!」と思い込まないように。

それから、『水源』の主人公は、なんで建築家なの?建築家って、中世で言えば、「石工」(mason)でしょう?ロークは、「自由な建築家」=「現代の自由な石工」だ。もともとが、フリーメイソンというのは、大昔の高度技術者集団=石工の組合だ。大教会だの大寺院だの宮殿だの城砦だの砦だの、みんな石工たちが造ったのだ。フリーメイソンの会員が集まる集会所を、なぜロッジと呼ぶかと言えば、各地から集まった石工たちが建造物の建築中に寝泊りする場所=ロッジから来ている。

みなさん!『水源』をお読みになったみなさん!この石とか、大建造物の工事中に集まる石工たちのイメージというのは、な〜〜んか、『水源』の中に見え隠れするどころか、あからさまなイメージではありませんか?まず、この小説の冒頭に出てくるイメージは、花崗岩ですよ。ロークが学ぶ大学の建物はもちろん石造であるのですが、小説の始めあたりに、この石造の建築物が、「中世の要塞」に似ているものとして描写されています。ご丁寧にゴシック様式のチャペルも描写されています。この小説は、もう冒頭からもろに「フリーメイソンくさい」です。そう思いませんか?

それから、ロークとキャメロンの関係は、親方(master)と徒弟(apprentice)の関係でしょう。教師と学生の関係ではなく、職人同士のそれでしょう。ロークに心酔して集まる男たちって、マロリーは石を彫る彫刻家で、これも現代の石工。マイクは電気技師ではあるが、建設工事の現場でしか働かないのだから、これも現代の石工。つまり、ロークとその友人たちは、みな石工。ガソリン・スタンドの設計をロークに依頼したジミー・ゴウエンも自動車整備工だけど、これも現代の石工みたいなものでしょう?

本来は、石工の組合、技術の伝承もかねる職人養成所だったフリーメイソンには、だんだんとその人脈資源と情報資源に目をつけた上層階級の人間も入会するようになった。フリーメイソンは汎ヨーロッパ的組織だったので、外国とコネクションを持ちたい大貿易商とか外交官とかも入会するようになった。「現代の石工」のロークに心酔したワイナンドみたいだ。ロークに建築を依頼した財界人みたいだ。

ロークが採石場で働くところには、もろに石が出てきます。あたりまえ。だけど、なんで「石」なんでしょうねえ?ねえ??

『肩をすくめるアトラス』に登場するヒロインやヒーローたちは、腐ったアメリカの中に新生アメリカを建築しようとする人々は、みな重厚長大産業の担い手が多かった。鉄道だの鉄鋼製造業だのエンジン製造だの鉱山開発だの・・・これって、みな石工的なものではない?

また、彼女や彼らが作る新生アメリカは、「自由と平等と博愛」を標榜したフリーメイソン的秘密結社じみていないか? だんだんと、社会から消えていった有能な人材が、人知れずコロラドの山中で別社会を形成するという設定は、もろフリーメイソンの比喩に思える。ジョン・ゴールトと彼の仲間たちは、国家を造っているというよりは、どう見ても仲間内で巨大な地下室に秘密結社を造っているようにしか見えない。なんか、イメージが前近代的なのよ。近未来SFなのに、電気がついていなくて、明かりは蝋燭だけみたいな、奇妙な半端でない古めかしさがある。

しかもシンボルマークが、ドル($)マークだってさ。1ドル札には、フリーメイソンのマークであるピラミッドとひとつの目(全能の神の瞳)が描かれている。1ドル札は初代大統領ジョージ・ワシントンの絵柄だしなあ。彼も、フリーメイソンだったそうです。ベンジャミン・フランクリンもそうでした。つまり、アメリカ独立革命は、フリーメイソンが起こした革命だったということらしいです・・・じゃ、ランドが依拠したアメリカ独立宣言の理念も、フリーメイソン的なるものの別バージョン?

これくらいにしておきます。このテーマについては、まだまだ私は調べなければならないですから。ただ、ランドの小説は、読む人が読めばすぐわかるほど、「フリーメイソン」的であり、彼女がアメリカの国民作家になったのは、フリーメイソン国家であるアメリカにとっては至極当然のことであった・・・彼女の提唱した思想は、フリーメイソン的なるものの結晶体だった・・・という確信は、私の中で日増しに強くなっています。

リバタリアニズムについても、この文脈から考えてみることも必要ではないかと、今の私は思っています。ひょっとしたら、ネオコンもリバタリアニズムも、その根にはフリーメイソンが関わっているかもしれないのだから。自由主義思想自体のルーツを考えてみないとなあ・・・

ちなみに、フリーメイソンには女性は入会できません。21歳以上の男性ならば、審査を経て許可されれば入会できます。ランドの心の中には、人間の理想を掲げたその結社に、全世界ネットワークに、女ゆえに入会できなかった慙愧の念が、いくばくかはあったのではないか。その満たされなかった憧憬は、『水源』や『肩をすくめるアトラス』に描かれる男たちの「結社」に紅一点混じるドミニクとかダグニーというヒロインに託されているのではないかと、私は想像するのです。

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悪夢だろうが吉夢だろうが、夢など見ないというか、見ても忘れてしまう私でありますが、一度でいいから、アイン・ランドと長々と語り合う夢を見たい。ロシアなまりの抜けないランドの英語を聴き取れるかどうかわかりませんが、ことの真相を話してもらいたい。ヴァーチャルとはいえども、私は、この極東アジアの一角に「ランド・ロッジ」作ったんだから。一度くらいは会いに来てくれてもいいのではないでしょうか?夢で会いましょう〜♪