アキラのランド節

留学生たち [05/12/2007]


ゴールデンウィークもとっくに過ぎました。春学期が始まってから一ヶ月以上が経過しました。日々いろんなことが起きますが、私の「鳥頭」はドンドン忘れて、はっと気がついたらウエッブサイトの更新も滞ってありました。明日は日曜日ですが、勤務先でキャンパス見学会があり、模擬講義を担当しますので、出勤しなければなりません。土曜日の今日のうちに書いておこう。

ほんとうならば、「高場乱(たかば・おさむ)さん編」の続編を書かなければなりませんが、今日は、私の回りにいる留学生たちのことを書きます。

春学期は諸事情がありまして、週に計11コマを担当しています。大学にお勤めの方ならば、これがいかにとんでもない事態か、よ〜〜くご理解できると思います。大学というところで教えるようになって、非常勤講師時代も含めれば、25年経過しますが、週に11コマというのは、さすが初めてです。54歳の初体験です。白内障で見えない目が回る日々です。

しかし、人間存在というのは、面白いもんですね。精神が立っていると、魂が屹立していると、くたびれはしても、なんとか元気にこなせるものですね。講義の始まる10分前に教壇にスタンバイして、講義開始を迎え撃つ態勢でいられるものです。2月と3月が不調で休養したおかげです。まさか、こういう日々が待っていたとは・・・一寸先は闇だ。いや輝かしい光だ。光というのは、まぶしくて、時にはしんどい(大阪語で疲れるという意味)もんでありますから。

講義での学生の私語や、ごく少数の学生からのしょうもない卑劣なコメントにうんざりしている私を、哀れと思し召して、社会人聴講生の女性が、夕食用お弁当を差し入れてくださいます。「今の親御さんはどういう教育をしているのでしょうか。学生さんたちに、ちゃんと怒って啖呵を切るセンセイがいいです」と言ってくださいます。ありがとうございます。クラスの準備で夜の8時半くらいまで研究室で仕事しているうちに、自分に餌を与えることを忘れる(のわりには、いっこうに痩せないが・・・)私にとって、ほんとうにありがたい援護射撃です。お心遣いを、ありがとうございます。

私立大学は経営上、どうしても定員以上の「授業料収入のための学生」を入学させねばなりませんから、しかたありません。本来ならば教室にいてはいけない学生が教室にいる事態は避けられません。給料下がっても良いから、学生は定員以上とらないで〜〜〜現場の教師がかなわんよ〜〜という意見の持ち主は、学内では極度に少数派であります。といっても、圧倒的多数の学生は真面目に聴いています。コメントも真面目にきちんと考えて書いてくれています。それが救いで希望ですね。

週に担当11コマのうちの1クラスは週に1回開講の大学院のクラスです。勤務先の桃山学院大学が提携しているインドのジャダヴプール大学という、インドでは5本の指に入るらしい国立大学から交換留学でやってきた比較文学専攻の院生ふたり(男性と女性)と、ポーランドのヤギフェ大学(ここも名門国立大学だそうです)からの交換留学生の女子学生と、中国からの男子留学生が受講生です。

インドとポーランドからの留学生は、まだ日本語ができないので、仕方ないので、英語でやっています。インドの大学の講義はみな英語でなされます。ポーランドでも、若い人は当たり前に英語ができるそうです。ですから、彼や彼女たちのほうが、私よりも、はるかに英語はできます。しかし、彼と彼女たちは、頭はもちろん、人柄もマナーもいいので、私のひどい英語を我慢してくれています。中国からの留学生は、日本語も英語もいまひとつながら、私のひどい英語と、インド&ポーランド連合の立派な英語に、ナントカ明るく食いついてくれています。

受講生が全員外国人のクラスというのは、私は初めてです。これも54歳の初体験。何でも初体験というものは胸が躍ります。と同時にくたびれます。大学院生だからなあ・・・かなわんよ・・・質問やコメントがうるさい、うるさい・・・ほんとに、すぐ質問してくる。すぐに、ピッと意見を言う。アメリカのフェミニズムをたたき台にして、自分たちの国の状況を考えるという趣旨のクラスだから、うるさいよな・・・日本のジェンダーを考察するときは、日本アニメなんかも利用しますよ。

国は違っても、アカデミアの世界で人文系大学院生が読まされる本は共通しています。「これは、日本版オリエンタリズムですね〜〜」とか「ポスト植民地主義の観点では〜〜」とか「サバルタン的には〜〜」とか「ジェンダーの問題ですね〜女って、やっぱり他者で〜〜」とか、「グローバリゼイションはローカリズムも促進してえ〜〜」とか、「政府にとって都合のいい若い世代の知的劣化は世界的現象で〜〜プロパガンダに洗脳されやすくて〜〜」とか、もう〜〜うんざりするほど、学会でさんざん聞いてきた用語が飛び交いますわ。うんざりするほど、そっくりだ!

インドからの男子院生の論文をチラッと読んだけど、もう・・・ほんとに世界共通の「文化左翼系カルチュラル・スタディーズの論文」。コルコタ(カルカッタ)の大道芸人のパフォーマンスの経済的文化的布置と資本主義の関係を書いていましたが、読んでも私には理解できませんでした・・・わかるはずないよな。

比較文学とかそんなことして、将来食ってゆけるのか?趣味にしておくのはいいが、キャリアになるのか?まだ若いから考え直したら?とか、つい彼と彼女にはお節介なことを言ってしまいました。なにしろ、私はふたりのacademic advisorだから。

前にイタリアからの留学生で村上春樹が好きと言っていた美人の女の子にも、そう言ったことがある。村上春樹なんかアメリカの現代小説のパクリだから、村上龍のほうが、まだ日本が抱える問題に肉薄しているから、村上龍は英語訳もあるから、龍さんの方を読むほうが、本気で日本研究したいのならば時間の無駄にならないよ・・・とか言わでもいいこと言っちゃって・・・ほんとに、私って正直でお節介だな。

「サバルタン系学者のインド系(パキスタンだったか?シンガポールか?忘れた)フェミニストのガヤトリ・スピバックは、確かコロンビア大学の教授だけど、学会や講演のときは、民族衣装のサリー着ているけど、私、あの人が、ニューヨークからワシントンDCへの電車なかではジーンズにセーター着ているの見たよ。民族性を学問的商売にするのは、なかなか戦略的でいいよね〜〜」と言ったら、インドの留学生、黙っちゃった・・・あ・・・まずかった?

ところで、インドでは、わりとアイン・ランド゙読まれているそうです。インドからの交換大学院生の女性のほうが、「Atlas ShruggedよりThe Fountainheadのほうが、私は好きです」と言っていた。「そのThe Fountainheadの翻訳を私はしたんだよ〜〜」と言ったら、びっくりしていました。「えええ〜〜〜うそ〜〜??」という感じの反応のノリは、インドも日本の若い女の子も似ていますね。

彼女は、いかにも上層中産階級出身らしき上品な可愛いお嬢さんです。アーモンド形の目が綺麗です。はにかんで話すしぐさが、微笑が、自然にエレガントです。男の子なら、特に苦学系男の子が絶対に憧れそうな女子学生です。幼稚園から高校までずっとミッション系の私立学校で育ったので、故郷のベンガル語より英語のほうがラクだそうです。インド版「1960年代日活青春映画の若き日の和泉雅子」かな。おわかりになりますか?若い人には、わからないだろうなあ・・・

彼女は、日本のサイエンス・フィクションに関心があるのですが、日本語ができないので、英語訳で読むしかありません。小松左京のJapan Sinks(『日本沈没』)とか 筒井康隆のWhat the Maid Saw(『家族八景』)が好きなのですが、う〜〜ん、ほんとにいい日本SFは、日本語できないと読めないよ〜〜筒井康隆の『家族八景』関連の<七瀬シリーズ>ならば、最後の『オイディプスの恋人』なんかが一番いいのだけどなあ・・・普通の主婦が魂のレヴェルの高さを買われて、神様になってしまったのはいいが、愛する息子の恋人&嫁としてもっともふさわしい女性として超能力者の七瀬を選び、息子と七瀬は、神の意志のとおりに恋に陥るが、息子を愛する母=神は・・・・という物語は、神と人間の関係を考えるのに、すごく面白いSFなんだけどな。これを最初に読んだときは、私も若かったから、どちらかというと七瀬に感情移入したけど、今は、神様になってしまった母親のほうに感情移入するもんなあ〜〜これは、ドラマ化がされたことがないが、ちょっと無理かな。面白いのだけどね〜〜

あと、山田正紀の『現象機械』とか『神狩り』とかの、秀逸な日本SFも英訳はされてないしなあ・・・光瀬龍とか半村良とかも読まないと日本SFについてなど論じることができないのになあ・・・・私が持っている英訳の日本SFを、彼女にドンドン渡しつつも、う〜ん、英訳では量的に限界あるなあ〜〜と悩む私。

インドからの男子学生のほうは、1970年代前半の日本の国立大学にいたような頭のいい良心的な社会意識の高い男子学生のノリです。雰囲気は、懐かしの日本映画『若者たち』の登場人物の東京大学の左翼系学生をカッコよく演じた若き日の「山本圭」をインド人にしたと思ってください。はい。動作から、目線から、ものの言い方から、そっくりです。ええ、カッコいいですよ。今でも、国立大学あたりのインテリ女子大生には、この種の男の子は、まだもてるんじゃないかなあ。おわかりになりますか?若い人には、わからないだろうなあ・・・

このインドの山本圭さんは、故郷のベンガルの人々にシェークスピアを読んでもらいたいそうです。将来はシェークスピアのベンガル語訳をしたいそうです。「現代のインド人で、シェークスピアを楽しめる人間ならば、英語でシェークスピアを読めるよ。ベンガル語で訳すなんて、時間の無駄だと思わない?」と私が言ったら、彼、少しへこんだ・・・ごめんなさい・・・正直に言ってしまって・・・

「フジモリサン、あなたは東京大学出身?」って、そのインドの山本圭さんが私に質問したことがある。私は、「ううん、名古屋って街にある南山っていう私立大学出身だけど?」って答えたけど、何よ、この質問は?どーいうこと?どーいう意味だよ?東京大学出身じゃないと、言いたいこと言っちゃいけないわけ?私は、福沢諭吉曰く「国を支えて国に頼らず」の私立大学出身ですよ、なんか文句ある?というか、実質的には中卒だよ!高校も大学も大学院も通過しただけだからな・・・私って「学生向き」のキャラじゃないから、学生時代は不幸だった。でも内実は空しくとも、卒業証書持ってないと不便だもんね、近代社会ってさ。

でもって、この「上層中産階級出身らしき上品な可愛いアーモンド形の目が綺麗なインド版1960年代日活青春映画の若き日の和泉雅子」と、「東京大学の左翼系学生を演じたインド版山本圭」は、このおふたりは、なん〜〜と、といいますか、案の定といいますか、今年にはいって結婚したばかりの新婚のご夫婦でもあるのです!

お嬢さんと左翼系秀才男性の結婚・・・絵に描いたようなカップルじゃ。うまくやってけるのかな〜〜?男のほうが我慢が多いような気もするな。美男美女カップルですから、眺めていると愉しいですよ〜〜インドって、美形多いの?

この若きカップル、けっこう喧嘩をなさっておられます。私の予測どおり、ご亭主のほうが、「お嬢さん」に振りまわされておられます。末永く仲良くしてね!結婚って、最初の1年半くらいは、いろいろあるけど、だんだん相互理解ができてきて、「他人は変えられない!好きなら全部受け入れるしかない」と、互いに覚悟が定まるようになるからね!ならんかも・・・

ポーランドからの女子留学生には、「ノルマンディ上陸作戦の最前線で戦ったのは、アメリカ兵じゃなかったでしょ?ポーランド兵だったでしょ?ならば、昔の恩義を感じて、アメリカはポーランド人を受け入れやすいんじゃないの?私の昔の教え子の女性は、ポーランド人の科学者と結婚して、アメリカに住んでいるよ。あなた英語もできるし、アメリカに行く気ないの?」って、私は質問してみました。

そうしたら、彼女は、「あ、私はアジアやアフリカに関心がありますから、アメリカには行きません。中国に留学したこともありますし。確かに、昔は、ポーランド人の受け入れについては、アメリカは甘かったです。でも、それも、すでに<歴史>です。ポーランドでは、大学人の給料も低いから、知的専門職の人は、アメリカの国立病院とか研究所に行きたがります。そういうところは、アメリカ基準では給料が安いので、アメリカ人の優秀な人は行きたがらないんで、ポーランド人の医者や科学者がポストを埋めます。ポーランド人ってのは、間が抜けています。第二次世界大戦では、あちこちで戦闘を請け負って戦ったのに、肝心要の自分の国のためには戦わなくて、社会主義化をゆるしちゃって・・・ほんとに、ポーランドの人間って間が抜けているんです(stupid)」と言っておられました。ははは・・・ね、面白いでしょう?

この女性は、メイルの返事も電光石火です。打てば響きます。大きく響きます。頭の回転が抜群です。話していると、ほんとうに面白いです。日本映画もすっごく観ていて、溝口健二が好きらしいです。黒澤明は「ラショーモン」が最高だそうです。『七人の侍』とかのアクション喜劇系が好きな、だいたいがアメリカのアクション映画が好きなミーハーの私とは大違いです。ヨーロッパのインテリって、総じて、アメリカを馬鹿にしているようです。ウォトカ(ウオッカのこと)が好きみたい。ウォトカはロシア産ではなくて、ポーランド産のもおいしいそうですよ。いっしょに食事したとき、日本の芋焼酎ロック飲んで、「ウォトカみたい〜〜」と言っておられました。

中国からの男子留学生は、「南京」出身です。南京大虐殺の南京です。300万人殺したとか、日本刀100人斬り競争というのは、デタラメだとしても、戦争ですから、虐殺はあったでしょう。それは事実だったでしょう。「え?南京?うわ!あなたも日本人に対してすっごく悪感情持っている?」って聞いたら、「そんなことないですよ。昔のことだし」という答えが返ってきました。本気で言っているのかな?

しかし、この男子学生、研究対象はアイルランド文学なんです・・ならば、なんで、日本の大学の大学院に来たのでしょうか?英国とかアメリカとかカナダとかさあ・・・いっそ本家本元アイルランドに行くべきでしょーが?

漏れ聞いたところによりますと、おじいさまが、戦前の日本に留学なさったことがあって、東京大学を卒業なさって、革命前の中国では、かなりのいい立場にいらしたそうです。彼自身も、お洒落なお坊ちゃんです。ともかく、彼は日本に住んでいたいようです。う〜ん・・・よくわからんわ・・・マスコミ報道による「中国の反日」って、ひょっとして虚像?中国人もいろいろって、ことか・・・日本暮らしを楽しんでいるようでありますよ、彼は。

実は、今年度の春学期の週11コマのなかには、タクシーで飛ばして30分のところにある同じ系列のキリスト教系私立大学の大学院のクラスもひとつ混じっているのです。去年の秋に、今年度がこういう事態になっているとは夢にも思わず、「2007年度だけだし、大学院だし、1クラスだけだからいいか・・・」とうっかり安易にお引き受けしてしまったのであります。他大学へ出講は、これが最後と心に決めつつ。2003年にも、この大学の院ではクラスを担当したことがあるのですが、あのころ入試委員だったので、高校への出張が多くて、やむなく休講をかなりさせてもらったので、その罪滅ぼしもあって、お引き受けしました。

その大学の学長は、あの作家の故井上靖さんのご子息だそうです。井上靖さんは、例のNHKの大河ドラマの『風林火山』の原作者ですね〜〜私は、若い頃、この方の『通夜の客』という短編小説が好きで、何度も読んだものでありますよ。朗読したりもしました。今でも洗練されたラブ・ストーリーだと思っています。渋いオトナの恋愛が描かれていたのであります。カッコいいなあ〜〜と思ったんだ。

NHKの『風林火山』といえば、最初のうちは、「困ったなあ〜〜この女優さん」と思っていた「由布姫」役の柴本幸さんが、最近は、ものすっごく良くなってきました。とってもいいです!太い眉や、キリリとした目線や、凛とした声に、堂々とした演技に、すっかり魅せられております。だんだん、可愛らしく、綺麗になってきたしなあ〜〜いいなあ〜〜♪ 松たか子さん以来の、いい女優さんではないでしょうか〜〜やっと鑑賞に耐える女優さんが出てきました〜〜♪

もう、テレビ界や映画界も、いいかげん、しょうもない馬鹿下品なオネエチャン系タレント系ばかり集めないでくれ。巨乳は私も大好きだが、そこにちゃんと脳もつけろ!そんなことばかりやって、日本人の美意識を劣化させようとするのならば、もう見てやらないぞ!これもユダヤの陰謀でしょうか?って、何の話か?

ところで、なんと、このクラスも留学生ばかりなのです。よそさまの大学の大学院に出講したら、そこの受講生も外国人学生ばかりだったのです。中国と韓国と台湾。そのなかには、中国で育った「朝鮮族」の女性もいて、彼女は「在日韓国人」とはまったく関係のない「中国の朝鮮族」が、いまはかなり日本に来ている、推定5万人は日本にいると、教えてくれました。う〜ん、ややこしい・・・なんで、日本に来るの?

このクラスでは、最初は、英語のテキストを使用するつもりだったのですが、受講生は、みな日本語はできるが、英語ができないということが、初回講義のときに判明しました。「アメリカ文化論」のクラスなのに〜〜〜

ま、いいやと思って、日本語のハンドアウト作って、それを読み上げてもらって、漢字の読みを覚えてもらいつつ、講義進行しています。そのうち、「あの講義は、オモロイよ」という噂がたったのか(希望的推測?)、日本人の院生も受講するようになりました。聴講だけでもいいですか?という留学生も出てきて、ワイワイと快活に楽しくやっています。今では、お引き受けしてよかったと思います。

面白いですよ。ハンドアウト読み上げてもらうと、日本人院生が音読できない=発音できない漢字を、中国や韓国からの留学生が正しく発音できて、教えてあげています。なんじゃ、それは?

さらに感心するのは、このアジアからの留学生の礼儀正しさと心遣いの細やかさです。ちゃんと挨拶してくれます。私が講義開始前30分くらいに着いて、教室が空くまで、院生研究室の隅っこに腰かけて本を読みながら待っていると、誰かが、静かにお茶などいれてくれるのです。「水筒にお茶入れて持って来てるから、いいですよ」と言う私に、「水筒なんか重いから持ってこなくてもいいですよ」と言ってくれます。講義中にDVDとか使用しようとして、何につけても機械に弱い私がジタバタしていると、手伝ってくれます。それでも埒(らち)があかないと、事務職員さんを呼びに行ってくれるのです。ハンドウアトが足りないと、サッサとコピーしに行ってくれます。また、講義が終わって、ボードに書いた字を私が消そうとすると、誰かやって来て、いそいそと消してくれるのです。

男の子は男の子らしく明るく行動力があり、女の子は女の子らしく気遣いができる。

そうですね、挨拶だの黒板消しだのお茶入れだのは、私が学生時代には、学生が教師にして当たり前の珍しくも何ともないことでした。しかし、これ、いまどきの日本の大学では、めったに見ない。私は、最近は、こんなまっとうな扱いを学生さんからされたことがなかったので、びっくりしてしまいました。不覚にも涙ぐみそうになりました。つい、「日本に来てくれて、ありがとう」と心の中でお礼を言ってしまいました。

ともあれ、いまどきの日本の学生は、こんなこと、まずしません。というか、気がつきません。ほんとに大事に、大事に、「王子さま&王女さま」として、暇もてあました親から、もしくは稼ぐに負われた余裕のない親から、躾などされずに、育てられていますので、親はいても、狼少年もしくは野生の少女みたいなもんです。

おかげで、日本の学生さんの多数は、自分という狭い殻から自分の意識を分離させて、回りを見回して、注意力をはたらかせるという習慣が身についていません。悪気はないですが、結果的に、非常に鈍感です。小さく狭い自分の感覚の満足だけに、心を奪われています。非常に幼稚で、かつ無駄に無意味に傷つきやすいです。自分を突き放して、状況全体のなかに自分を置いて眺めてみる、自分の感情を眺めてみるということができないからです。受身でテレビとかゲームばかりやっていて、脳が動かなくなっているようです。簡単に言えば、想像力がない。せっかく持っている、唯一の自分の資産である脳を使っていない。

まあ、留学生は、日本に留学してくるくらいだから、本国では恵まれた家庭の子女でもあるし、もともと能力的に高いから、外国語の日本語もできるし、気遣いなどができるだけの資質があるのでしょう。

それにしても、「気遣いもできない、人間としての可愛げがない」日本人は、留学なんかしても、受け入れ先の国の人間に軽蔑され、嫌われるかもしれません。そうなると、国辱もので、文化的国防にもならないから、日本国内にとどまって、電車内で化粧したり、携帯でもいじくってくれていたほうが、日本のためでしょう。この種の人々には、外国観光旅行も禁止したほうがいいです。

中国からの男子留学生がポツリと言いました。「日本は気楽です・・・緊張しなくていいし・・・」と。中国の朝鮮族の女子学生が言いました。「でも人間関係は、緊張するところが違う。何考えているか、よくわからないので、ナーヴァスになってしまう」と。「はっきり言ってくれるほうが、いいのに・・・」と韓国からの女子留学生が言いました。「センセイは、はっきり言うからラクです」と、さきの中国からの男子留学生が言いました。

あれ?私は何を言ったのかな?「中国って、上海と北京じゃかなり意識が違うでしょう〜〜?大連と北京じゃ、やっぱり違うでしょう〜〜?中国が5つくらいに分かれてドタバタしてくれていたほうが、日本は助かるんだけどな〜〜北京政府も、そうしたら靖国のこともうるさく言う暇がなくなるしさあ〜」と言ったことか?「どこの国でも国を支える神話ってあるでしょう?中国人にとって、中国統一を果たした始皇帝も神話なんでしょ?実は、始皇帝って漢民族じゃないという説があるでしょう?始皇帝の墳墓を掘ったら、白人系の人骨が出たっていうじゃない。秦って国家は、ユダヤ系の人々によって建設されたということは、北京政府は知っているけど、秘密にしているって説もあるよね〜〜?」と言ったことか?

こう言われた中国人男子学生は、その後、インターネットで調べまくって、「センセイ、始皇帝がユダヤ系だなんてことは絶対にありえません!ただ、母親が、すごく色白の美女だったそうですから、母親にはひょっとしたら中央アジアあたりの出身者の血がはいっていたかもしれません。そのあたりで、ユダヤ系という説が出てきたんじゃないでしょうか?」と私に言った。真剣でした。

「違うって!私が言ったのは、始皇帝ばかりではなくて、始皇帝に殉じて死んだ人々の墓の人骨も白人系だったってことで、ことは始皇帝個人の出自だけを問題にしてるんじゃないの!日本でも大陸からやってきた帰化人の秦氏はユダヤ系中国人だったそうだよ。秦河勝とかさ・・・ユダヤ系中国人って事実としているでしょ?」とは、もう私は言いませんでした。若い人に、事実かどうか証明もされていないことを言ってしまって迂闊だったと反省しました。申し訳ありませんでした。

それにしても、彼らや彼女たちの日本語能力はすごい。しかし、私の話は、どこまで通じているのかな・・・?「センセイは、最初から、そういう性格でしたか?どこで育ちましたか?」と、中国の朝鮮族の女子留学生から聞かれた。どーいう意味だよ?

さて・・・日本に外国からやって来る「留学生」もいれば、日本から外国に行く「留学生」もいます。私が、目をかけて可愛がってきた、これまでも「ランド節」に何度も登場してきた「ゲイの恋人」の3年生の男子学生ふたりも留学します。<洋風顔>のほうは、すでに5月6日にアメリカのニューヨークはクイーンズにある大学に向かって、発ちました。

もうひとりの<和風顔>のほうは、5月の21日に、ワシントンDCに近い大学に向かって出発です。ふたりとも、夏休み中に英語をみっちりやって、秋学期&春学期に大学の授業を受けて、来年の5月に帰国する予定です。それからは、ひとまず日本の大学院に進学するつもりです。それぞれに志望の大学院を心に秘めて決めているようです。

「留学前に送別会やってあげる!ご馳走してあげる!」と、私が言ったら、美形で頭のいい男子学生に甘いという私の弱みにつけこみやがって、こいつら、「吉兆がいい!」と抜かしやがったのです。あの懐石料理の有名店「吉兆」のことです。何を、贅沢な!何を生意気な!「大阪王将」で十分じゃ!

しかし、さすが私が、ひそかに贔屓して可愛がってきた学生だけのことはあります。20歳の若さで、「有名な吉兆の料理を食べてみたい!」と考えるとは、さすが見所があります。アメリカに留学する前に、きちんとした日本の料理を食しておきたいという希望は、実にまっとうであります。

いっそ、京都は嵐山の本店で・・・・と思いましたが、あそこはお座敷しかありません。私は正座は苦手です。しかも、あそこは安くて4万円からのコースしかありません。冗談じゃないよ〜〜だから、京都は京都でも、駅ビルのホテル・グランヴィアの中にある「吉兆」で、洋室の個室を借りて、5月1日に、ディナーをするということになりました。

「センセイ、やっぱりスーツとか着ないと駄目ですか〜〜?」と言っていたくせに、ふたりとも、ふつ〜〜のカジュアルな格好で待ち合わせの場所にやってきました。チェッ・・・ふたりともカッコいいから、スーツ着てネクタイしたら、ほんとに決まってカッコいいだろうと期待していたのになあ。その期待はずれを、帰宅後に夫に話したら、「あなたは、ホストをはべらしたいオバハンか?」と言われてしまいました。あいつらのほうが、ホストよりも、うんとカッコいいよ!

「吉兆」でディナーの待ち合わせまでは、彼らは、「最後のデート」として、大徳寺に行き、かつ近くにある今宮神社に行き、そばの有名店でナントカという名物のお餅を食べてきたそうです。う〜〜ん・・・ロマンチックですね・・・南大阪の恋人たちの留学前の最後のデート場所が京都・・・♪やはり京都ですかね〜〜難波ってわけにはいかないよねえ・・・

ゲイのくせしやがって、ふたりとも、給仕をしてくれる綺麗で若い女性に、なんやかやと話しかけ、質問しておりました。なにが、「この器とこの器はあっていないのではないですか?」だ。なにが、「嵐山の本店では、魯山人を使うんですよね?」だ。

しかし、ああいう場所で、気後れもせずに、すましながら、行儀よくふるまいながら、きちんと「いっぱしの若き紳士」をする態度は、オトナから見て嬉しいものであります。そうそう、いつまでも、20歳過ぎても、「マクド」(ハンバーガーのマクドナルドのこと)で、だらしない姿勢で、背中丸めて犬食いしているようじゃ、しょうがないからね。将来のために、きちんとしたところで食事することに慣れておこう〜〜♪大学院の入試が合格したら、またご馳走してあげるからね!ほんと、私って・・・甘いよな。

懐石料理をいただいて(はものお吸い物!若鮎の塩焼き!若竹の石焼き!すごくおいしかったね!)、楽しくおしゃべりをして、抱負を語りあって、私たちは京都駅で9時半ぐらいに握手してお別れしました。おふたりのご健闘とご多幸を心から祈ります!ご家族やお友だちに相談しづらいことがあったら、いつでも私に連絡してください。私でも、お役にたてることがあるかもしれません。あなたたちが桃山に帰ってくるときは、私は研修で桃山にいませんが、卒業式には行くよ!

さて、私と別れた後、ふたりはどこに行ったのでしょうか??むふふ。

しかし、<和風顔>から、<洋風顔>が席をはずしているときに、私は言われてしまいました。「センセイ、Blogに僕のことを書くのは構わない。だけど、あいつのことは書いちゃ駄目ですよ・・・あいつは、すごくロマンチックな奴なんだから・・・それから、あいつのことを<あなたの恋人>って言うの、やめましょう」って。ちょっと、ちょっと、なんだよ〜〜その態度は?なんだよ〜〜一丁前に<あいつ>をかばっちゃってさ〜〜愛だな、愛・・・・私って、ゲイの恋人たちと遊んでいたい女?オカマのそばにいたいオナベ?

それはさておき、Blogじゃないよ。Websiteだよ!Blogは無料だけど、私の「日本アイン・ランド研究会」は、ちゃんと年間使用料払っているんだからさ。きちんとした活字にしても読むにたえるくらいの文章を載せているつもりであります。書きっぱなしで言いっぱなしで無責任な類の雑な凡百の「匿名Blog」と、いっしょにしないで欲しいね!

今日は、閑話休題。私をめぐる「留学生たち」のお話でした。人生って、いろんな出会いがあるなあ・・・来る者拒まず、去る者追わず・・・猛烈に忙しく、夜などくたびれて呆然としてしまって読書もできない状態ですが・・・ささやかな喜びもいっぱいの毎日です。