アキラのランド節

韓国の大学に行って思ったこと(後編) [11/13/2007]


「韓国の大学人は語学堪能だ!」についで、書きたいことは「韓国の大学人の世界は、ハンパでなく序列社会だ!」で、あります。

韓国の大学人(女性の教授って10パーセントもいないんじゃない?ほとんどいないみたいに見えた)のうち、特に男性の大学人は、上下関係や序列にきわめて敏感です。ボスは絶対にボス。ボスに気楽な姿勢で話している姿は見たことがないです。気楽に話しているようにみせながら、非常に気を使っています。徴兵制度があるせいもあるのでしょう、垣間見る韓国の男社会の序列の厳しさには、凄みが感じられました。

日本の大学の教員は、わりと「一国一城の主」感覚でいます。各教員は、学部長相手だろうが、学長相手だろうが、とくに気も使わないっていう人々が多いです。特に、私の勤務している桃山学院大学は、そういう気風の大学です。みな言いたいこと言い合っている大学です。ですから、啓明大学の人々の上司には服従の姿勢を見ながら、懐かしいような気がしました。そう、日本でも昔は、年長者や上司には、こうやって気を遣ったもんだったな・・・

帰国してから韓国事情に詳しい方に聴いたところによると、韓国では学校の教師や上司への謝礼は普通の慣習だそうです。子弟を留学させるのは、「そのほうが、トータルすれば経済的」という理由もあるそうです。つまり、かかる費用は授業料と滞在費だけであり、それ以外の「目上の人々への配慮で使用する金」は、いらないからだそうです。「お子さんのことでご相談が・・・」と先生に言われれば、学校に呼び出された父母はそれなりの額を用意してお礼をさしあげるのが慣習だそうです。それだけ、目上の人々に具体的に礼を尽くすことが要求されるようです。

これは事実かどうかわかりませんが、大学によりますが、就職や昇進においても、研究業績の量と質と同時に、謝礼の効果が大きいという話も耳にしました。日本では、医学部あたりならば、そういうこともあるのかもしれませんが、まあ人文系だと、少なくとも、文学研究系では、そういうことは噂でさえも日本では私は耳にしたことがない。金にならん学問は、金だす必要もないんで、気楽ですね。

とにもかくにも、「礼儀の国」が韓国なのです。日本みたいに、テキトーに頭下げておけばいいという形骸化したマナーだけがはびこる社会じゃないのです。実質的にも礼を尽くす社会なのです。本気なのです。実質がいい加減じゃないのです。うわあ・・・私では無理だあ・・・

啓明大学滞在の2日目に、桃山組のために総長主催の夕食会がテグ市内ホテルの日本食レストランで開かれました。総長が遅れて到着して着席してからの、韓国の教授陣のさりげない気遣いぶりは眺めていて面白かったですよ。別に「ゴマする」とかの露骨で過剰な礼儀の誇示なんかは全くありません。そんな卑しい田舎者じゃないですよ、韓国の大学人は。スマートです。洗練されています。マナーがいいです。日本人みたいに、すぐ酒に酔って、しょうもない口論始めることもないです。そのあたりは、ちゃんとawareness(油断のなさ)が身についています。日本の大学人よりも、はるかに韓国の大学人は、global standardに生きておられます。

総長さんは、ドイツ哲学でニーチェが御専門の、まだ50歳そこそこの男性の若い方です。最近中国はチベットまで出張に行かれたそうで、そこでの出来事を楽しそうに語り始めました。韓国の教授の方々も、そのお話を楽しそうに、にこやかに傾聴しておられました。適宜言葉をはさみながら、総長さんが話しやすいように配慮なさっておられました。全部、ハングル語で話しておられましたから、詳しくは私にはわかりませんでしたが。私の隣に着席していた英語もハングル語もOKの女性の同僚が適宜通訳してくれましたので、内容がなんとか推測できました。

しかし、私はちょっとむかついたのであります。日本からの客人のための夕食会なのに、何をチャラチャラしゃべってんだ・・・こいつら仲間うちで・・・失礼な連中だな・・・と思ったのであります。ですから、私はその総長に「総長、中国には観光に行ったのですか?」と、唐突に大きな声で質問しました。そしたら、一瞬みんなギクッとして黙りました。しかし、一瞬あとに大爆笑が起きました。その後は、あまり総長さんも、自分の出張のことばかり話さなくなった(と思う)。さすが、総長さんですね。そう、この夕食会は、あんたの座談会じゃないの、私たちの歓迎会なの。お疲れでしょうが、ちょっと我慢してください。私も我慢しているのだから。

ま、この件に関しては、翌朝に、年上の男の同僚から「あれは言いすぎだ!」と怒られました。ば〜〜か〜〜!失礼なのは重々承知で言ったんだよ、私は。失礼なのは、どっちだ?あっちだろーが?だいたいが、桃山から来たお前ら男どもが、そういう姿勢だから、なめられるんじゃ。だから、ああいう扱いを受けるんじゃ。あんたらが出す話題の質の貧しさゆえに、こいつら馬鹿&退屈だと判断されて、ああいうことになるんじゃ。それが、わからないのかねえ?なんてことは、私は、口に出して同僚には言いませんでした。どうせ、言ってもわかんないだろ〜〜口に出してもしかたないことを口に出すのは、愚痴にしかならないもんな〜〜♪

私が、某教授に訊ねましたところ、啓明大学の総長は、教授陣や事務職員の投票で決まるのではなく、理事会の指名によって決まるそうです。啓明大学は、韓国の大学では一番最初に、選挙で総長を選ぶリベラルな大学であったそうですが、今は、推薦委員会で候補者3人をしぼりこみ、その3人から、理事会が選ぶ方式だそうです。「どういう方を理事会は指名したがりますか?」と質問しましたら、その方は「いい質問ですね」とお答えになりましたが、それ以上はお答えになりませんでした。「それは当然、理事会が制御しやすい人になりますね」と、私が言いましたら、その方は苦笑いして、うなずいておられました。

ところで、学長選挙制が消えた理由を、最後の夕食会で副学長さんからお聞きしました。その理由が、とても韓国らしいです。「選挙運動が激しくなりすぎて、熱くなりすぎて、後遺症が大きいのです。選挙制度は弊害が大きすぎて、指名制度のほうがましです」だそうです。結果が出てからも、学内は静かにならなくて、大変なのだそうです。やっぱり、本気でやる人々です。徹底しています。ちょうど、その頃は、桃山でも学長選挙があったのですが、「学長選?ふ〜ん・・・」と言っている私のような、生ぬるいいい加減さは、韓国の大学人にはないようです。

こういう優秀で、かつ一途な人々の国を植民地に日本もしたのだから・・・戦前の日本人は容赦なく凶暴だったに違いない・・・まあ、日本人は、あと最低200年ぐらいは、反日感情にさらされるしかありません。

以下は、私なりの結論であります。

韓国は、大学という観点だけから見れば、日本よりも、はるかにグローバリゼイションに対応しています。ボーダーフリーの世界に生き残っていく資質や技術の教育を提供する大学の使命を遂行することに、はるかに真剣です。目的合理的に邁進しています。大学人も、公平に見て、日本の大学人より優秀です。

韓国の大学進学率は80パーセントだそうです(!)。しかし、そのかなりの受験生はソウルの大学を目指しますし、裕福な層はアメリカなどの外国の大学をめざします。それに加えて、日本と同じく少子化で受験生は減少しています。地方の大学の生き残り闘争は、ほんとうに厳しいです。美しいキャンパスに、数多いドミトリーに、アメニティ度高い環境に、能力&やる気ある教授陣に、教育サーヴィス提供に勤しむ職員たちに・・・

しかし、やれるだけのことをしても、学生はソウルへと流れて、入学者の質は落ちていくばかりだそうです。だからこそ、より一層に、現実の世界の変化に適応できるような学生養成に励み、ますます、韓国の大学は、global standardの貫通度合いを高く濃くしていくのであります。

はっきり言って、グローバリゼイションへの対処度に関しては、日本の大学は、韓国の大学の相手にはなりません。完璧に負けています。もう韓国から、「日本のことはいいよ・・・島国で勝手にやってたら・・・」という扱いをされるのは、いたしかたない。

しかし、私は前から気になっていたことへの回答が見つかった気がしました。私は、前から韓国の人々に関して不思議に思っていたことがありました。反日感情の高まりに見られるように、韓国の人々は、すごく愛国心が強そうです。のわりには、金持ってアメリカやカナダへ移民して、落ち着いたら、もう韓国に帰らない・・・在日韓国人の人々も帰らない・・・日本人は、やいのやいのと自分の国の悪口言うわりには移民しないし、亡命しない。研究者もアメリカの大学でtenure(大学での終身在任権=ずっとその大学で働く権利)をせっかく得ても、60歳近くになると帰ってくるなあ・・・日本人は愛国心なさそうに見えて、無自覚に自分の国に依存しているなあ・・・というのが、私が抱いてきた印象でした。

どうも、韓国の人々は、自分の国の政府を信用していないようです。国に頼っていないようです。政治家ですら、子どもをアメリカあたりに送って、帰ってこなくても平気ということは、政治家ですら、自分の国を信用していないというか、はっきり言って「自分の国が嫌い」ということを、意味していませんか?

これって、すごいことじゃありませんか?政治家ですら、自分の子どもを国家とともに生きることはさせたくないと思っているってことですよ。うわあ・・・

そういう心性にさせたのは、韓国の現代史の過酷さでしょう。祖国を離れて、海外に安定と仕事の夢を託すという姿勢は、国が国民を守りはしないことを、とことん骨身に染みて知っている人々だからこそ身についたものでしょう。下層社会の人間は、金も語学力もないので、祖国がどんな状態になろうと、祖国と運命をともにするしかありませんが、中流以上の人間で、能力も経済力もあれば、脱出を実践して当然でしょう。家族と親族と同胞は信じられるけれども、国は信じられないのならば、ほんとうに信じられないのならば、そのように行動するしかありません。

私が見たことのある韓国映画に、子どもの英語の発音をよくするために、子どもの舌を切るという内容のものがありました。舌を短くする手術を延々と映し出す映画でした。私は、その映画はある種の近未来恐怖SFだと思っていたのですが、なんと、それは事実だったのです!その映画のことを私が話したら、「あ、それはもう法律で禁止されています」と、某教授の方がおっしゃいました。えええ〜〜〜??法律で禁止されるほど、そのような手術がおびただしくあったということか?より明晰な英語発音のために、子どもの舌を切る手術が。

英語の発音のため舌を切ることができるのならば、あ〜た、生きやすくなるために、男女問わず、顔を整形するなんて、全くどうということはないでありましょう。私が見た別の韓国映画では、高校の教師が「お前、整形しないと、就職できないぞ」と、ブスの女子高校生に言っていました。これ、日本の高校でやったら、確実に教師がセクハラで懲戒免職になるかも。

うわあ・・・ほんとに徹底しています。それだけ、生きるための競争が厳しいのでありますよ、韓国は。その厳しさを生んだ環境の形成に加担したといいますか、加害者のひとつである国の人間が、それを言うな!とつっこまれるのは覚悟で言いますが、私は韓国に来て、韓国の人々の優秀さに感銘を受けつつも、その優秀さを生む背景に痛々しさを感じました。

これは、韓国の人々は口に出さないでしょうが、私が垣間見た韓国の伝統的序列社会の息苦しさからの脱出も、韓国のある種の人々が躊躇することなく遂行する国遺棄の理由の一つではないのかな・・・と、私は勝手に推測しています。特に、女性や若い人は、アメリカとかの外国のほうが、はるかに居心地がいいんではないのかなあ・・・

ともあれ、今回の韓国での短い滞在は私にとって、非常にいろいろ勉強になりました。仕事がらみでなかったならば、私が韓国に来ることはなかったでしょう。啓明大学の教授の方々は、「もう過去のことだから、歴史だから」とおっしゃってはおられましたが、反日感情が消えているはずがない国に気楽に観光に行くには、私は気が小さすぎます。また、実際に、その日本が過去にしたことを、意識させる出来事もありました。これについては、書く気になったら、ここで書きます。

隣国の人々が優秀であることは、日本人にとっていいことです。隣人や友人が優秀だと、うかうかしていられません。国際環境も学友や同僚と同じことです。馬鹿とつきあってもしかたありません。馬鹿の中で、「あたいはできるもん」と思っていても、しかたありません。つきあうのに気を遣うぐらいに、気が張るくらいに、頭のいい奴がそばにいてこそ、自分を甘やかさずにすむってものです。その頭のいい奴が、真面目でいい加減な中途半端なことはしないのならば、一層のこと、つきあうのに、頭も心も使わねばなりません。

みなさん、まずは隣国に行ってみましょう。隣国がいかに発展し、隣国の人々がいかに優秀かリアルに感じてきましょう。時差もありませんから行くのに疲れません。食べ物もおいしいです。お刺身とかしゃぶしゃぶなどの日本料理も韓国風にアレンジして絶妙です。お刺身は、わさび&しょうゆでいただくのもおいしいですが、味が単調になりがちです。韓国風に、大葉やサニーレタスで包んで、豆板醤などをつけて、他の野菜などといっしょに巻いていただくと、お刺身は、ずっとおいしいです。いくらでも、お刺身食べることができます。

キムチはもちろん、あさりやチキンのだしに、削り切ったうどんを煮込んだカルブックスも、まるごと鳥一羽のなかにお米だの棗(なつめ)だのを入れて煮込んだサムゲタンもおいしかったです。私は、馬鹿の一つ覚えで、「アジューマッシソヨ〜〜」(とても、おいしい!)ばかり連発しておりました。お粥もいろいろです。私が特に好きなのは、すき焼きに似た味の牛肉の炒め物のブルコギです。スープ類は、みなおいしいです。

それから大切なこと。トイレも綺麗です。そこらあたりは、中国とは大違いです。

今回、韓国の人々の優秀さに関して、私はひとつの推論を立てました。ほら、韓国って姓が少ないでしょう。今回、名刺を交換した方々は総計15名以上にのぼりますが、「李さん」だけでも5名おられました。ですから、同僚間でも、「李さん」と呼ぶだけでは駄目です。Dr.Leeと教授会で呼べば、10人ぐらいが振り向きます。ですから、フルネームで呼ばねばいけません。確実に名前を記憶しなければなりません。でないと礼を逸しますし、友人でさえできません。

私など、同僚を呼ぶときも、すべて「センセイ」ですませています。姓までは知っていますが、そのフルネーム言えない同僚の方が圧倒的に多いです。学生さんの名前を不正確に覚えていて、怒られることはしょっちゅうです。記憶力が、それぐらいにヒドイです。しかし、韓国では、そんな大雑把で脳軟化なことは通用しません。名前は確実にフルネームで覚えなければ意味がないという状況は、幼い頃から韓国の人々の記憶力を鍛錬させていると思います。語学の習得には、特に記憶力は欠かせません。

ところで、話は全く変わりますが、ほんとに全く変わりますが、今回でボーン3部作が完結しました。洗脳されて暗殺マシーンになっていた自分の過去をさぐっていくCIAのエージェント&もとエリート軍人をマット・デイロンが演じるアメリカ映画のThe Bourne Ultimatumは、最高です!私は、1度見終わって館内を出たものの、あまりに良かったので、チケットを買って、また見直しました。2度見ても、まったく飽きない!音楽もいいです!最後に流れるExtreme Waysは最高です!私の愛用のiPodにちゃんと入っています〜〜♪

1度はみたものの、またチケット買いなおして見た映画は、2000年秋のニューヨークで見たCrouching Tiger, Hidden Dragon(『グリーン・ディスティニー』)以来です。すごいアクション映画です。明らかに監督は、The Terminator好きだな・・・私にはわかる!

この映画を超えるアクション映画を、ハリウッドは作ることができるでしょうか???だいたい、3部作なんて、最初のが一番できがいいというのが普通ですよね?AlienもThe Terminatorも、そうでした。でも、これは、監督がポール・グリーングラスになったThe Bourne Supremacyから、ガラッと格段に良くなった。まあ、最初のThe Bourne Identityも、そこそこ良かったのではありますが。まだマット・デイモンちゃんが20代で若くて可愛いですし。

しかし、最高の頂点は、このThe Bourne Ultimatumです。ハワード・ロークよりカッコいいですよ〜〜マット・デイモン扮するジェイソン・ボーンは。21世紀の地球における「文武両道」とは、こういう人物を意味するのでしょう。あ〜〜アメリカは、こういう映画作れるんだ〜〜世界を股にかけたグローバリゼイション映画です。この国には、かなわないよ、ほんと。知力が違うよ。韓国の優秀な人々がアメリカをめざすのは、当たり前で素直なことですわ・・・

ところで、あのThe Bourne Ultimatumで出てくるニューヨークはマンハッタンのTudor Cityという地区に私は1年住んでいました。うわお〜〜〜〜映画館の中で黙って大声を発して、静かに大騒ぎをして喜んだ私でありました。みなさん、この映画だけは、DVDじゃ駄目だって。映画館に行かないと!大画面で見ないと!

さて、日本は、日本人の頭脳流出とか、日本人による日本遺棄がないような国であり続けることができるでしょうか?青い鳥は、どこか遠いところにはいません。自分の足元から責任を持って固めていかないと、自分の居場所をなくしてしまいます。歴史的にヤワでおめでたい甘ったれた生き方ができてしまった日本人には、韓国のタフな人々の真似はできません。歴史的に、そんな鍛錬を受けていません。

日本人には、アメリカに行ってAmerican Dreamを達成することは難しいでしょう。大方の日本人は、アメリカが好きでも、アメリカ人になりたいとは思わないでしょう。American Dreamなんて、あくまでも他人の夢でしかないでしょう。グローバリゼイションに対処するために、妻子をアメリカに送って、自分は黙って働いて送金するなんて根性は日本の男にはないでしょう。また、日本の女も、そこまで子どもに賭けることはできないでしょう。家族神話は、日本ではすでに実質的にはぶっこわれています。海外で日本人同士の強固なる秘密結社じみたネットワークなんか、日本人は作れないでしょう。

じゃあ、日本人はどうするのかな?私は、どうするのかな?わかっていることは、私たち日本人には逃げ場はないってことです。この日本列島しかないってことです。ここで、この国で頑張るしかないってことです。留学している、優秀でタフな日本人の若い方々へ。必ず日本に帰って来てください。祖国防衛に努めてください。中年のオバサンも頑張りますから。

さて、とりあえずは、明日の講義のハンドアウトの見直しと印刷と、来年春の学会のシンポジウムでの発表内容のレジュメ書きだな・・・といっても、なんも頭に浮かびません〜〜〜♪