書評    Almost Monthly Book Review
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■2002年6〜8月に読んだ本から

渡辺昇一、小林よしのり
『愛国対論----「サヨク」に一撃、「ホシュ」に一閃』
ダイヤモンド社 2002.4 \2200


一国の歴史と個人の処世は似ている。 基本的認識を共有する渡辺さんと小林さんの相違は、次の点に集約される。アメリカ帝国を徳川幕藩体制に例えれば、例のテロを「島原の乱」と考えるのが渡辺さん。「桜田門外の変」と考えるのが小林さん。歴史の副読本にしてもいいほどの情報量豊かなこの対談の圧巻は、太平洋戦争を始めるまでに至った日本と世界の状況の分析を踏まえての「日本が採るべきだった道」に関する白熱する討論である。「アメリカを敵に回さない道はあった」が渡辺説。「アメリカは結局日本が邪魔でアジアを好きにしたかったのだから、何やっても無駄だった」が小林説。多分、小林さんの説の方が正しいんだろうけれども、かといって圧倒的に強い敵と戦って自滅しても、しかたないしなあ。本書のテーマは「愛国」だが、私が考えさせられたのは、「圧倒的に自分より強くずる賢いからこそ理不尽でもある敵に対処して生き抜くこと」についてだった。その方法は、ふたつしかない。相手の力が弱まるのを待つか、こっそり黙って静かに自分を強くするか、どちらかだ。どちらも忍耐力だね・・・でも個人の処世でも、ひとつの民族の処世でも、人間の一番素晴らしい能力は、勇気ある忍耐だと、この年になって、つくづく私は思うよ。


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