書評    Almost Monthly Book Review
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■2002年11〜12月に読んだ本から

石黒一憲
『国際摩擦と法・羅針盤なき日本』
信山社 2002.7 \2800


本書は不思議な本だ。ボーダーレス化する世界に増加せざるをえない国際取引紛争と国際経済摩擦の問題点が実例にそってカタログ的に列挙されている。戦略的国際訴訟観が欠落する日本企業の対応から、国家法の域外適用される法を過度に駆使して自国の利益を守るアメリカ、国際経済摩擦の中で日本に貼り付けられてきた「不公正貿易論」など、国際法の観点から現代と未来に関わる経済の諸問題と諸事例が整理され、「我々が目指すべき社会と人間像」が提示される。

この種の本は、いかに有意義なものであろうと、情報が豊かであろうと、素人が読めば眠たくなる。しかし、この著者の記述には、切れば血が出るような臨場感がある。矛盾形容ではあるが、著者は「現場で生きている研究者」なのだ。この本は、骨太で「男らしい知力」をほとばしらせている。「男らしい」って、差別用語?「男らしい」ってのは、最大の美徳だ。女もめざすべき美徳だよ。ともあれ、法と経済と世界の錯綜した図が生々しく見えてくる本だ。こういう東大教授も、いるんだなあ。この著者の別著『法と経済』とかは、この分野では知る人ぞ知る名著であり、必読書だ。ほんとうにすごい研究者って、テレビなんかに出て、しょうもないコメントしてる暇などないのだよ。


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