書評    Almost Monthly Book Review
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■2003年1〜2月に読んだ本から

米本昌平
『独学の時代』
NTT出版 2002.8 \1900


優生学や遺伝に関する科学啓蒙書で知られる著者は「独学の達人」だ。京都大学の学生だった著者は、金儲けを軽蔑しながらも、自分たちの研究や立場の保持に多額の税金が使われることには何の痛痒も感じない国立大学の大学人になることを拒否した。名古屋の証券会社に勤務しながら、在野の科学史研究家として論文を書き続ける。

しかし、本書で面白いのは、この会社員学者が、シンクタンクの所長になるまでのサクセス・ストーリーだけではない。本書には、無名の会社員時代に書いた論文がいくつか収録されているが、これがいい。生物はランダムな偶然で多様化し進化してきたのではなく、ある目的をプログラムされて進化してきたのではないかという「生気論」「抽象生物学」の探求は、前世紀までの近代科学思想の転換を予感させて楽しい。この「生気論」って、学会では、いまだに「うさんくさい神秘主義と紙一重」だと思われて無視されているそうです。


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