書評    Almost Monthly Book Review
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■2003年1〜2月に読んだ本から

パトリック・ブキャナン 宮崎哲弥監訳
『病むアメリカ滅びゆく西洋』
成甲出版 2002.12 \1900


本書の主張はこうである。「健全な家庭を築け。勤勉に働き義務を果たせ。あらゆる文化や価値観に優劣はないとラディカル左派やリベラル派は言う。ではなぜ西洋に難民はやって来るのか。移民は来るのか。西洋が獲得した価値観が優れているからだ。マスコミは、白人の犯罪は報道するのに、黒人やゲイなどのマイノリティの犯罪は報道しない。差別だと批判されるのを恐れているからだ。事実は事実として報道せよ。古き良きアメリカに自信を持って戻れ。」これはアメリカの主流白人の、多数派の庶民白人の掛け値なしの本音だろうなあ。アメリカの保守派の代表である著者の主張に、私は(あくまでも)だいたい共感する。犯罪者が外国人だと報道も遠慮がちの日本が、隣国の犯罪にきちんと抗議できない日本が、まっとうに生きることを子どもに教えられるはずがないし、二一世紀を生きぬけるはずもない。まあ、まっとうな意見ばかりではあるのだよ、普通の白人オヤジの。

しかし、よくわからんのは、アメリカの家庭崩壊の原因をフェミニストのせいにしていることなのでありますよ。不思議。母親が働きに行くのは、フェミニズムのせいではなく、高度消費社会の中の家庭の経済を支えるため。女は自立とか自己実現のために働かない。働くということは、そんな甘いものではない。男が家族にめいっぱい精神的にも物質的にも守ることができるような経済力の豊かな家庭の主婦はアメリカでも日本でも、ボランティアはしても、賃金労働などしないよ。高度資本主義社会の中で自由を買う手段たる金銭獲得のために、母親も主婦も働いているのだ。フェミニズムというのは、こういう普通の働かざるをえない女性たちが女性であるがゆえに蒙る不利益を是正しようとする思想だよ。私だって、貧乏だから働いている。別に、フェミニストだから働いているわけではないよ。貧乏でブスの女の思想がフェミニズムだって、橋本治も小谷野敦も書いていたが、それは、そうですよ、あたりまえだ。しかし貧乏でブスだからといって、自分の不利益に耐え、不条理に耐えているわけにはいかんよ。フェミニズムは、確かに貧乏でブスな女を守る思想です。文句ある?だって、ほとんどの女はブスで貧乏じゃないか。だから、ほとんどの女がフェミニストになるのは、あたりまえだ。この本の著者は、なんか勘違いしている。ほとんどの圧倒的多数の男は、女を精神的にも物質的にも守ることなどできないのだから、女は家庭を守ることだけに専念していられない。そんなことしていると自滅してしまうのだから女だって自衛するわさ。家庭崩壊の原因を女のせいにするのは、八つ当たりというもんだよ、まったく。


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